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法話

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法話--平成24年6月--

十三仏(薬師如来)--無病息災は安心から--

今回は七七忌の導師、薬師如来のお話です。

薬師如来は、正式には東方薬師瑠璃光如来といいます。
阿弥陀如来が西方極楽浄土の教主であるのに対して、薬師如来は東方浄瑠璃界の教主なのです。
西の阿弥陀さま、東の薬師さまともいわれます。

西方浄土が来世であるのに対して、東方瑠璃界は現世であるのです。
つまり阿弥陀如来が来世での安らぎを約束されるのに対して、薬師如来は現世での安らぎを聞きとどけてくださるという点が特徴といえるでしょう。

薬師如来のそのお体は清浄にして瑠璃の如く輝いているといわれます。
瑠璃は七宝の一つで紫がかった青色の宝石です。
その光明は太陽や月よりも明るくその無量の光明で世界を照らし、十二の大願を発してすべての衆生を迷いや苦しみから救ってくださるという。

その光明の象徴として日光菩薩と月光(がっこう)菩薩が脇侍として祀られているのが薬師三尊です。
薬師如来は、その名の示すとおり医薬を司る仏であり、左手に薬壺を持ち、病気を治す仏さまとして有名です。
薬壺の中には、身体の病、心の病、社会の病など、病という名のものはどんなものでも治してしまう霊薬が入っているのです。

真言は、「オン コロコロ センダマリ マトウギ ソワカ」です。
真言(マントラ)とは、仏に守護を願い、直接呼びかける、謂わば「パワーコール」なのです。
ですから特に訳す必要はありません。その言葉自体に意味があるのです。

日光菩薩の真言は、「オン ロボジュタ ハラバヤ ソワカ」
この真言を唱えれば、病根が焼かれるとのこと。
月光菩薩の真言は、「オン センダラ ハラバヤ ソワカ」
この真言を唱えれば、苦熱が除かれるとのこと。

薬師如来のまたの名を医王如来ともいい、医薬兼備の仏さまです。
人間にとって一番恐ろしいのが死を招く病気です。
病気には体の病気から心の病気までいろいろあります。
欲が深くて、不正直で、疑い深くて、腹が立ち、不平不満の愚痴ばかり、これらも実は皆病気なのです。

薬師如来は応病与楽の法薬で、苦を抜き楽を与えてくださる抜苦与楽の仏さまです。
サンスクリット語で思い通りにいかないことを「苦」といいます。
その四苦八苦のなかで「病」ほど大きな苦はありません。
どんなに地位名誉や財産があっても病に苦しんでいたら幸せとはとてもいえません。

人類にとって健康は永遠のテーマであり、幸福の担保はまさに健康にあると言っても過言ではありません。
どんな宗教にも多くの御利益が謳われていますが、「無病息災」こそ万人がこぞって求める最大の御利益だといえるでしょう。

健康こそ幸福の証だという、今回はその健康について考えてみました。
まず体の健康ですが、栄養のバランスと適度の運動だとよくいわれます。
確かに栄養が不足すれば病気になりますが、現代の病気の多くは食べ過ぎによる生活習慣病が殆どと言ってよいでしょう。

言うまでもなく体は食事でつくられますが、問題はその質と量のバランスです。
食欲という本能はコントロールが難しく食べる気になったらいくらでも食べられるものです。
子供のうちはしっかり食べても、大人になったらコントロールが必要になるのです。

要は「食事は薬」だと思っていただくことです。
ある薬が効くからといって多く服用する人はいませんね。
効く薬ほど量を誤ったら危険です。このことについては一昨年の8月の法話「五観の偈」でくどくど話したとおりです。
この意識さえあれば、しっかりとした健康が得られる筈なのです。

最近ナグモクリニック南雲吉則医師の「空腹が人を健康にする」という本を読んで、いかに食事が大事であるか改めて知りました。
すでにご承知の方も多いと思いますが、最近「長寿遺伝子」なるものが発見されました。
正式名を「サーチュイン遺伝子」と言います。

動物の体が空腹であればあるほど生命力が活性化するという仮説のもと、アカゲザルやモルモットなど、多くの動物実験が行われ、その結果証明されたのです。
飽食のアカゲザルは老化が早く、40%食餌制限したサルは明らかに毛並みも良く皺もなく若さを維持していたのです。

とくに日本のことを言えば戦後の焼け野原から復興して以降一般庶民はお腹一杯食べられることこそ最高の幸せだと思い込み、国民はみな、お腹一杯食べられることを目指してきました。
しかし、皮肉にもその結果は糖尿病を始めとする様々な形の生活習慣病をかかえる羽目になってしまったのです。

南雲先生は、食事の量を減らし、余分な内臓脂肪を減らし、サーチュイン遺伝子を目覚めさせて健康で若々しい肉体を維持できると言っています。
サーチュイン遺伝子は空腹状態におかれたとき、人間の体内に存在している50兆の細胞の中にある遺伝子をすべてスキャンして、壊れたり傷ついたりしている遺伝子を修理してくれるというのです。

これまで仏教やヨガの「断食」やイスラム教の「ラマダン」などにみられる小食の結果が人の長寿に繋がっていることが経験的に分かっていたのですが、それはサーチュイン遺伝子の活性化によるものだったのです。

かつて僧侶は粗食に生き長寿の模範とされましたが、今では一般の人と平均寿命においてそう差はなくなってしまったようです。
豊かな食生活が坊さんの世界にも普及しているということでしょうか。

「腹八分目」とはよく言われますが、特に年齢を重ね基礎代謝が低くなってきた人にとって小食が一番です。
拙僧的には「腹六分目」を心がけています。
さらに毎日30分の散歩でおかげでいたって健康に過ごしています。

さて、前回は人類の未来について「環境」と「進化」をテーマに人類の未来は"退化という進化"を続けていて大変暗いものだと申しましたが、実は人の健康にも環境による"進化"があったのです。

人類17万年の歴史はつねに飢餓との闘いであったと言っても過言ではありません。
その長い飢餓の時代を生き抜いてきた進化のなかで少ない食べ物の中から、出来るだけ多くの栄養を吸収しようとして身につけたのが「飢餓遺伝子」といわれます。

わずかの食物から最大のエネルギーを蓄えることができるという長寿遺伝子・サーチュイン遺伝子ですが、さらに、これは健康だけでなく、同時に老化や病気をくい止める働きにも関与しているという。私たちの祖先は、過酷な環境を生き抜く長い進化の過程でこのようなサバイバル遺伝子を獲得してきたのです。

しかし飢餓に対する強い体質を進化させてきた一方、我々の体質は肥満に対して無防備という"退化"をしていたのです。
人間が日に三食、食べられるようになったのはわずかにここ百年といわれています。
十分食べられることの幸せが皮肉にも生活習慣病という結果を招いたのです。

次に体と同時に大事なものが「心」です。
仏教では「心身一如」と言って、心の状態が体に大きな影響を与えるとされます。
不安やストレスは体に活性酸素を発生させ免疫力を低下させる最悪のものと言われています。

病気の多くは免疫力の低下が原因とされていますので、体にとってストレスこそ最大の敵なのです。
それだけに「心の健康」が不可欠なのです。
しかし、快適な文明社会を作ってきたはずが、あまりにも高速緻密化された環境に人の心が追いつけずストレスが蔓延しているのが現代社会です。

人が仕事をするのではなく、仕事に人が使われ、時間に追い立てられています。
仕事優先の環境に人の心はストレスに冒され人間関係もおかしくなっています。
なんでも新入社員の4割が3年以内に離職しているとか。ひきこもりやウツ病という心の病が確実に増えているのです。

「ストレス」の反対が「安心」です。
拙僧はこれまで幾度となく「安心」こそが「幸福の証」だと申してきましたが、心の健康とはまさに「安心」にほかなりません。

欲深く、不真面目で、疑い深くて、短気で、不平不満の愚痴ばかり・・・これらも皆病気だと申しましたが、それは「安心」でない状態にあるからです。
(法話20年12月「安心(あんじん)」21年1月の「安心本尊」を参考にしていただければと思います。)

薬師如来に無病息災という御利益をお願いするなら、只祈るのではなく、まず自己の心を省みて、怒りや貪り、愚痴などが起こらない心の精進が必要なのです。
つまり他力本願ではなく自力本願が求められているのです。

これまで何度も言ってきましたが、仏教は「心の教え」です。
健康も幸福も基本は心にあります。
つまり無病息災の御利益は「安心」にこそあるということです。

合掌

曹洞宗正木山西光寺