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法話

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法話--平成28年6月--

不慳法財戒 -惜しむことなかれ(その2)-

ようやく舛添さんもギブアップしました。しかし往生際の悪さも相当なものでした。
辞任の挨拶も見送りもなく憮然と都庁を去る姿は実に悲哀なものでした。
「せこい」が世界を駆け巡って有名なニホンゴの一つに加えられましたが、それは間違いなく彼の「功績」でしょう。
皮肉にしてはちょっと「せこすぎ」ですか?

それにしても因果応報の理法を侮ってはいけません。
自他ともに万人が自重しなければならないことを改めて教えられました。
仏教という釈尊の教えを一言で言うならば「因と縁と果の法則」すなわち「因果の業報」だと言えるのです。
仏教は何も特別難しいことを教えているわけではありません。

諸悪莫作(しょあくまくさ)もろもろの悪いことはするな
衆善奉行(しゅぜんぶぎょう)つとめて善いことをせよ
自浄其意(じじょうごい)自ら心を浄めよ
是諸仏教(ぜしょぶっきょう)これが諸仏の教えである

これは「七仏通誡偈」(しちぶつつうかいげ)と呼ばれるもので鳥窠道林(ちょうかどうりん)禅師(八二四年寂)が白楽天(八四六年寂)の「いかなるか仏法の大意」の問いに答えた言葉だと言われています。

「悪いことはするな、善いことはせよ」というのです。
「そんなことは三歳の子供でも知っている」という白楽天に対し、道林禅師は「三歳の子供でも知っていることを、八十の老翁が実行することはできない」と叱咤され、白楽天は拝謝して去ったと伝えられています。

仏教はどこまでも自業自得を説きます。
いかなる事態が起きようと責任を他に転嫁しない。
自分の責任としてどう刈りとるか。
その刈り取り方が次の種まきとなる。
よき教えに導かれてよき因(たね)を撒き続けなさいという、まさにこれが即ち仏教の骨子なのです。

前回から指摘しているように、人が悪いことをするのは、貪、瞋、痴の「三毒」によるものがほとんどです。
だから仏教は自業自得を説くのです。
三歳の子供でも知っていることが、「いい大人」にできないことの難しさ。
だから仏教は因果必然による自業自得を説くのです。

今回も前回からのテーマ「貪」をとりあげています。
貪欲から生まれるのが、せこさ、おしみ、詐欺、窃盗です。
窃盗や強盗は最悪の場合殺人まで引き起こします。

確かに、人には生きていく上で必要な欲というものがあります。
それは基本的な生存欲であり、人生のモティベーションを保つためには欠かせないものです。
生物としての食欲、性欲、睡眠欲、そして人としての名誉欲や向上心があるから達成感や幸福感を味わえるのです。

問題はそれらが健全な範疇でなければならないということです。
「貪」が問題となるのは度を超し自制が利かなくなることです。
貪欲に溺れるのが餓鬼であり、前回はその餓鬼の実態について述べました。
しかしそんなにお金を持っていて一体何に使うのかといつも不思議でなりません。

人にはある程度のお金や財産があれば不幸でない筈なのに、何十億や何百、何千億もの使い切れないほどのお金を持つ必要があるのでしょうか。
どんなに美味いものを食べても、どんな豪邸に住んでも、どんないい車に乗っても所詮個人が消費するには限界があります。

世界には30億人もの貧困者がいるという。世界の五人に一人が一日1.25米ドルで生活しているという。
その一方世界で最も裕福な85人が人類の貧しい半分の35億人と同量の資産を握っているという。
同じ時代、同じ地球に生まれながら、生まれた場所が少し違うだけで人生が全く違ってしまうというのはなんとも言えない人間界の不条理です。

ある雑誌によれば、タックス・ヘイブンの利用で失われる全世界の年間推定税収金10兆円~25兆円といわれ、その推定貯蓄高は数千兆円にもなるという。
なんと「数千兆円」ですよ。
これを世界の貧困改善や格差是正に役立たせることができるとしたら人類はどんなにかスッキリするでしょう。

各国の税務・捜査当局は、租税回避地を利用する実質的な所有者の特定や違法性の有無などの捜査に着手しており、パナマ文書データーから更に実態解明を進めるという。
パナマ文書は、タックス・ヘイブンのごく一端を明るみに出したにすぎず、新たな内部告発が報道機関に寄せられる可能性は高いという。

G20(主要20ケ国・財務相・中央銀行総裁会議)は「税務に関する自動的な金融口座情報交換のための基準」を発表。
米国も世界金融機関に対して「外国口座税務コンプライアンス法」を施行。
タックス・ヘイブンに対する包囲網は狭まりつつあるとのこと。

日本の国税当局も、スイスとの租税条約を改正して情報交換規定を新設。
さらに香港、マカオ、英領ケイマン諸島、BVIなど、日本の企業や投資家が頻繁に利用するタックス・ヘイブンと相次いで租税条約を結んでいて、海外の税務当局からもたらされる情報は着実に増えているとか。

「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」
これはウルグアイ第四十代大統領ホセ・ムヒカ氏のことばです。

2012年ブラジルのリオデジャネイロで開催された国連会議で彼が聴衆に向けて語りかけた言葉です。
188カ国から首脳と閣僚級や政府関係者などが参加し、自然と調和した人間社会の発展や貧困問題が話し合われたこの会議で、彼の約八分間のスピーチが終わると、静まりかえっていた会場は一転して、大きいな拍手に包まれたとか。

この日の演説をきっかけに一躍時の人となったムヒカ氏は、質素な暮らしぶりでも注目され、「世界一貧しい大統領」と呼ばれました。
大統領の時期は、公邸には住まず首都モンテビデオ郊外の古びた平屋に妻のルシア・トポランスキ上院議員と二人暮らしを貫かれました。

1987年製(30年も前)のフォルクスワーゲンを自ら運転し、公用車に乗る時も、決して運転手にドアの開け閉めをさせない。
給与の9割を寄付し、月千ドル(約10万円)で生活したという。
個人資産はくだんのワーゲンと自宅と農地とトラクター。

現在は大統領を辞し、一国会議員となりましたが、暮らしぶりはずっと変わらないという。
とあるアラブの族長から「ワーゲン」を100万ドル(約1億1600万円)で買うといわれたとき、「車は友人からの贈り物、売れば友人を傷つけることになる」といって断ったとか。

質素な生活が注目されていることについて聞かれたムヒカ氏は「多くの人は、大統領は豪華な生活をしないといけないと思い込んでいるのでしょう。けれど私はそう思わない。大統領も国民のひとりにすぎない。指導者は国民の平均的なレベル以上の生活をしてはならない。
大統領が一握りの金持ちと同じ生活をしていたら、国で何が起こっているかわからなくなる。国民の生活レベルが上がれば、私の生活レベルも上がるだろう。それがいいんだ。人気が欲しくてこんなことを言っているわけではない。何度も考え抜いた末の結論なんだ」

世界にうじゃうじゃいる餓鬼どもに、とりわけ政治家たちにムヒカ氏の爪の垢を煎じて飲ませたいものです。
彼は今年4月に来日され、日本人に向けたメッセージがあまりにも素晴らしいと称賛され話題になりました。

ムヒカ氏の傍らで19年間取材をしてきたという、ジャーナリストのことばです。
「いま、どこの世界を見てもあれだけのメッセージを発する政治家はいない。人々はやはり何かを信じたい。他の世界的なリーダーのメッセージを聞いても魅力的には感じないけれども、彼のメッセージの中には惹きつけられる何かがある。」

中でも、注目したいのは「彼のメッセージはもともと日本が持っていた哲学的な概念と通じています。」の部分です。

ムヒカ氏ご本人も「日本から学ぶべきことは多い」としながらも今の日本の現状に対する率直な想いと苦言も述べられています。
次回は、そんなムヒカ氏についてさらにご紹介しましょう。

合掌

曹洞宗正木山西光寺