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法話

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法話--平成27年2月--

ジャーナリスト・後藤健二さんの犠牲が意味するものとは

日本中を震撼させた過激派組織ISによる人質事件は最悪の結果に終わりました。
危険な地域に、勝手に足を踏み入れたのだから、人質となった本人が悪いとする、いわゆる「自己責任論」が噴出しました。
だが、ほんとうにそれだけで片づけてしまっていいのでしょうか。

後藤健二さんは、ジャーナリストとしてのキャリアの多くを紛争地域の子供たちの苦難を世界に伝えるために費やしてきた人道主義者であり、不運な湯川さんを救出しようとする必死の試みでシリアに向かったといわれます。

湯川さんは、'14年4月にISとは別の反政府勢力・自由シリア軍に拘束された際、偶然現地にいた後藤さんが、「湯川さんは普通の市民」と説明し、解放されたことがあったそうです。

湯川さんは、これを機に中東での行動のノウハウを後藤さんから学び始め、自ら後藤さんの助手と公言するほど後藤さんを慕っていたそうです。
湯川さんは、シリアにも慣れたと感じたのか、8月に再び単身シリアに渡航し、結果ISに拘束されたのです。

後藤さんは、結果的に自らがシリアに導く形になってしまった湯川さんを案じ、相当な責任を感じたのでしょう。
外務省幹部の再三の引き留めにも拘わらず、「何が起ころうと自分自身の責任です」と言ってイスラム国に足を踏み入れたのです。相当な覚悟のほどが窺われます。

後藤さんと交友のある戦場ジャーナリスト・安田純平さんは、普段の後藤さんなら決してそんな無理はしなかったといいます。
「極めて慎重な人で、シリアの別の武装勢力から『取材許可証』をもらったのに、危険だと判断しそのまま帰ってきたことがあったくらいです。」

さらに人柄について、「同業者同士で話をすると、たいてい、戦場に入って酷い目に遭ったとか、どんな手法でネタを手に入れたかが話題になります。ところが後藤さんは、そうした話にはほとんど興味を示しませんでした。関心を持っていたのは、そこに生きている人々の『表情』でした。後藤さんは口癖のように、『テロリスト』という記号でくくられてしまうが、一人一人が表情を持っているのだ」と話をしていました。

'14年10月末に拘束されたと見られている後藤さんは、約3ケ月間耐え続けたのです。
妻や幼い二人の子どもたちを想い、そして、テロリストも人間だと自分に言い聞かせながら、死の恐怖と戦うことなど、誰にでもできることではありません。

自己責任論を唱える人でも、あるいは戦場に向かった後藤さんの動機を疑問視する人でも、その胆力には、『よく頑張った』と言わざるを得ないのではないか。

普段から極めて慎重な人であった後藤さんが、今回は、危険を知っていてなお、ISの中心部に向かったことを、『無謀』と切る捨てることは簡単です。
だが、友情からにしろ、義務感からにしろ、他人のために命を賭して死地に踏み込む勇気が私たちにあるだろうか。」と雑誌で述べられています。

また、ネット上では、「勇敢なジャーナリスト」、「日本人魂に敬服」、「武士道精神」などの言葉をはじめ、米メディアは「普通の日本国民ではなかった」とか、中国メディアでさえ、「戦争に見舞われている国で子供たちに寄り添った人柄」などと紹介しています。

後藤さんへの評価は今のところ日本国内よりも外国の方が高いようですが、あなた自身はどう思われるでしょうか。

それにしても、イラクでは今年に入ってISの暴虐で120万人が住む場所を追われたとか、IS絡みの戦闘で、半年で市民9347人が死亡したとか。見せしめ公開処刑、性奴隷制度復活…そんな残虐悲惨な現実社会に比べ、日本は実に平和でありがたいことではありませんか。
イヤ、しかしこれから先はわかりませんよ。

それは、ISが、「これからはすべての日本人を標的にする」と明言したからです。
これからは日本でもテロの起こる可能性がより現実味を増してきたということです。

先日のNHKクローズアップ現代に出演されていたゲストも「今まで紛争地域において日の丸を掲げていればそれが中立の象徴であり、身の安全が確保されていました。しかし、最近では日本人ジャーナリストへの見方が変わってきていると感じる」と言っていました。

ISとアメリカの戦争は、もはや現地の戦場だけのことではなく、世界中に影響を与えています。
多くの国でISを支持する若者が生まれ、実際に義勇兵としてISに合流しようとしたり、あるいはISと敵対する国でテロを起こそうとしたりする動きがどんどん広がっています。

すでに世界80か国から外国人義勇兵がISに参加しているとか。
ISの兵力は3万数千人程度とみられ、うち半分近い1万5千人がシリア・イラク両国以外の出身者とか。
大半は近隣アラブ諸国の出身者だが、欧米国籍者も3千人ほどいて、日本人もいるらしい。

そもそも今回の人質事件の発端には、安倍総理がISと戦う国々に対して2億ドルの支援を約束したことで、それがISに口実を与えてしまったとする見方が有力です。

安倍総理が唱える「積極的平和主義」は、日本政府が長年、国際舞台で自国を中立な立場の国として演出してきたものを、これからの日本の立場を戦争のできる明確な方向へ突き動かそうとするものです。

今回の後藤さんの犠牲が意味するものは、今までの平和主義憲法に根差してきた日本の外交政策が分水嶺を超え、戦争のできる国家としての立場を明確にしたということです。
そう考えると、後藤さんはまさに「積極的平和主義」の犠牲者と言えるのかもしれません。

しかし、後藤さんの犠牲でいたずらに感情論や報復論が助長されると、それこそ「積極的平和主義者」にとっては思う壺です。
安倍総理は、さっそく人質なった国民を助けるための自衛隊の海外派遣を検討し始めたとか。

安倍総理にしては今こそ追い風と思っているかもしれません。
悲願である憲法9条の廃止に向けて、来年までに、遅くとも再来年までには国民投票まで持っていくという決意です。

しかし、9条廃止はおそらく不可能でしょう。
極めて平和主義の日本国民がほぼ間違いなくそのような修正は否決するからです。

合掌

曹洞宗正木山西光寺