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法話

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法話--平成26年7月--

四諦--苦諦その4 病苦その2 病気にならない生き方 その12 ―平和ボケ症-その3―

前回、「平和ボケ」とは「平和の尊さが分からないこと」だといいましたが、さらに言えば、「戦争の危険性を見抜けないこと」だとも言えるのです。
今、日本国民に問われているのはまさにこの点です。

どんな民族であれ国民であれ、真に平和を望まない人なんていません。
問題はどうすることが一番の戦争抑止力になるのか、平和維持になるのかの判断が難しいことです。
此度の日本の場合、集団的自衛権か専守防衛か、そのどちらが平和維持にとって正しい選択なのかの見極めがまさに求められているのです。

7月1日、安倍政権はついに「集団的自衛権」を閣議決定しました。
安倍総理の言う「積極的平和主義」とは、同盟国との関係を強化し軍事力を高めることこそ戦争抑止力になるという論理です。が、ほんとうにそうでしょうか。

たしかに日本を取り巻く周辺国との信頼関係は最悪です。
しかし、その軋轢と軍事的緊張を徒に高めてきたのはアベさん自身なのです。
ならず者国家を相手に確かに軍事的強化は抑止力になるというのも感情的にはわかります。が、それははっきり言って間違いです。

なぜならそれは感情論からの発想だからです。
人は感情的になると理性的でなくなります。
感情論と理性論は相反するものです。
持論ですが、その論理からすれば今回の"騒動"は感情論と理性論の対決とも言えるのです。
どちらが正しいかは明白です。

人は理性的でない状況からは決して信頼を構築することはできません。
したがって、まずは対話です。対話に徹すれば必ず心は理性的になります。
人間にとって何より大切なものは理性なのですから。

対話に重きをおき、理性に立ちかえり共生の道をさぐることこそが、平和をもたらすのです。
それは人類の歴史が教えています。

仏教精神からしても、対話こそ不信を取り除くための手段です。
不信が双方を敵・味方にするのです。
不信が敵意となれば武力が一番の抑止力に思えてくるのです。
感情論からすれば当然です。
結果武力には武力しか返ってきません。
まさに因果必然のことわりではありませんか。

集団的自衛権賛成の人達は、こうした考えは理想主義だとか現実離れしていると言うかもしれませんが、人間が「理想」を捨て「真実」を無視したところに地獄が出現するのです。

人間が地獄に落ちる道理のすべては「貪、瞋、痴」にあるのです。
戦争という地獄もまったく同じです。
ただただ相手憎しという感情から生まれるのが「瞋(怒り)」です。
怒りの感情が武力に頼り、あとは報復の連鎖です。
現在のイスラエル、パレスチナを見て下さい。ウクライナ、ロシアを見てください。
結果は歴然です。

事ほど左様に、安倍さんの論理はまさに感情論からの出発であり、脅威、威嚇こそが抑止力になるという実に短絡的で危険な考え方なのです。

そもそも安倍さんのやろうとしていることは国家権力の強化と民主主義の否定なのです。
「集団的自衛権」はまさに氷山の一角にすぎません。
何よりも怖いのはそんなアベさんの持つ本当の「危険」が国民に分かっていないことです。

いうまでもなく、日本は立憲主義国家です。
主権在民の立憲主義国であるということは、憲法を変える変えないかを決めるのは主権者である国民なのです。
政府をはじめ行政や司法に携わる権力側の人達は、憲法を守り、憲法に従う義務があるのです。

分かりやすく言えば、憲法は国民が守るべき法ではありません。
国民が国家に守らせるべき法なのです。
国家が国民の人権を不当に侵害してトンデモナイことをやらかさないように、予め歯止めをかけておくのです。それが憲法なのです。

このことをどこかに置き忘れ、総理個人の悲願だからといって、解釈改憲を自ら率先して行おうとすることは、まさに政治の私物化です。
法治国家としてとるべき憲法改正の手続きを省き、結論ありきの内閣の議論で押し切ったことはまさに憲法違反ともいうべき暴挙なのです。(憲法研究所所長 伊藤真氏)

憲法98条に「この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」と定められています。
従って、「集団的自衛権の行使も許される」とする内閣決定は解釈の限界を超え、違憲で、無効である。(弁護士 大森典子氏)

安倍政権が集団的自衛権にこだわる背景に「湾岸トラウマ」があるといわれます。
湾岸戦争でアメリカなどから「カネしかださないのか」と批判を浴びたためだというのです。

そんなアメリカのご機嫌をとるために憲法の命ともいわれる九条を無理遣り解釈で変更しアメリカと一緒に戦争のできる体制にしようとしているのです。
アベさんは「国民の命と平和な暮らしを守る」などと言っていますが、本心はアメリカにおもねているとしたら、彼はいったいどこの国の総理なのか。

「日本を取り戻す」などと言っていますが、その実アメリカの属国にしようとしているとしたらまさに売国奴です。
国民を守ることを大義名分に掲げ、安倍さんは安全保障に関わる情報や権限を一手に握る仕組みを作っているのです。

政権に都合の悪い情報を隠すための特定秘密保護法、武器輸出を解禁する防衛装備移転三原則、外国軍への支援を認めるODAの見直しなど、アベさんの目指すところはまさに戦争のできる国家体制なのです。

評論家の内橋克人さんによれば、その統治戦略は、マネーとメディアとマインドコントロールの3Mだそうです。
マネーは「アベノミックス」です。株価景気を利用して国民をマインドコントロールすることです。

メディアでは、NHKトップの籾井会長を抱き込み、政権寄りの報道をさせ国民をマインドコントロールすることだそうです。
そんな安倍政権が持つ強権主義の一例がある週刊誌に載っていました。

7月3日に生放送されたNHK「クローズアップ現代」においての出来事です。
この日のタイトルは、菅官房長官をスタジオに招き、「日朝関係」と「集団的自衛権行使容認」について詳しく聞くというものでした。

集団的自衛権行使の話題のなかで、キャスターの国谷裕子氏は、「他国の戦争に巻き込まれるのでは」、「憲法の解釈を簡単に変えていいのか」などと菅氏に対して鋭く切り込んでいきました。
官房長官が相手でも物怖じしない国谷氏の姿勢はさすがでした。

番組は滞りなく終了しましたが、直後に異変は起こりました。
近くに待機していた秘書官が内容にクレームをつけたというのです。
それは、国谷氏が菅氏の発言をさえぎって「しかしですね」「ほんとうでしょうか」と食い下がったことが気に食わなかったというのです。

その数時間後、再び官邸サイドから抗議がはいり、籾井会長ら局上層部は「クロ現」制作部署に対して「誰が中心になってこんな番組作りをしたのか」「誰が国谷にこんな質問をしろと指示を出したのか」などという犯人捜しまで始まったというのです。

番組スタッフの話によると、この日、国谷さんは居室に戻ると人目もはばからずに涙を流したそうです。
国谷さんは、ただただ、「すみません」と言うばかりで、涙のワケを語らなかったそうですが、理由は明白でした。

7月17日、「ニュースウオッチ9」の大越健介キャスターが「在日コリアン一世の方たちというのは、強制的に連れてこられたり、職を求めて移り住んできた人達で・・・」 と発言したことに対して、NHKの経営委員で作家の百田尚樹氏が理事ら執行部にかみついたというのです。

「強制連行は間違いではないか」「NHKとして検証したのか」などと問いただしたというのです。
執行部側は「強制連行もあれば、自分の意志で来日した人もいるという趣旨だった。個別の番組への意見や注文なら問題になる」と言ったら百田氏は発言をやめたという。

百田氏の「永遠のゼロ」は拙僧も読みましたが、たいへん感動的な小説で2回も読んでしまいました。
太平洋戦争の経緯もよく分かるし、人間とは、戦争とは何なのかを痛切に考えさせられる素晴らしい小説です。

その中で彼が訴えているのは反戦の意味だとばっかり思っていましたが、その実像はさすがのアベさんの御めがねに叶うだけの人物でした。

放送法は第3条で『放送番組は(中略)何人からも干渉され、又は規律されることがない』と定めた上で、第32条で経営委員の権限について『委員は、個別の放送番組の編集について、第3条の規定に抵触する行為をしてはならない』と定めている。

発言が事実なら明白な放送法違反です。
「職責の自覚がなく、適正を疑う。任命した首相や同意した国会の責任も問われる。」(法政大学名誉教授・須藤春夫氏)

メディア論が専門の上智大学・碓井広義教授は「籾井氏が会長に就任して以降のNHKの報道姿勢には、疑問を持たざるをえない」と指摘しています。
NHKは政府の広報機関化しているのではないのかと心配になります。

世論調査では過半数の日本人が集団的自衛権行使に反対ですが、その一方「特に関心がない」「どちらともいえない」と言われる人がまだまだ大勢います。
国民全体が立憲主義の意味を真に理解し、安倍政権の実態を知り、"平和ボケ症"から回復し、早く"日本を取り戻しましょう"。

合掌

曹洞宗正木山西光寺