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法話

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法話--令和2年1月--

山元先生にみる菩提心 ―豊かな人生は心の中 ―

新年明けましておめでとうございます。
当ホームページをご覧頂いています各位にとってこの一年が無事息災であることを祈念致します。

修復された本堂の屋根昨年は各地が台風による甚大な風水害に見舞われました。
当山も酷い被害に見舞われ大変な思いをしましたが、良い業者に恵まれ12月中には粗方修復も終わり、例年通りのお正月を迎えられましたことは、何よりも安堵であり感謝です。

これも、災害保険はもとより何よりもご心配頂きました縁故の方々からの多額のお見舞い金の賜物だと深く感謝申し上げます。

今年も年頭にあたり災害のないことを願うわけですが、台風はもとより災害がないという保証はまったくありません。
実際毎年日本中どこかで大小に拘わらず必ず災害が発生しているのが現実ですから。

災害は実際自分が体験してみて、決して他人事でないことが分ります。
ここ館山の住民も、「房州は災害の少ないところだから」という妙な迷信染みた安心感があったようですが、天災にひいきなどないことが改めて分かったようです。

館山には各地から多くの支援が寄せられボランティアにも恵まれました。
特に昨年12月末には、突然ZOZO前社長の前澤友作さんから、館山にふるさと納税と称して、なんと20億円もの寄付がありました。まさに驚きです。

前澤氏は、たった一代で1兆円企業を作り上げた剛腕経営者として有名です。
「地域資源が豊富で高いポテンシャルがある館山市の地域活性に向け、ふるさと納税を活用した応援をしたい」とのことでした。

そんな前澤さんに目を掛けていただいたことに市民は一層の郷土愛と誇りを感じたことでしょう。
しかしこれは一方大きな期待と責任を負ったということです。
当局はしかるべきプロジェクトを整え、有効活用の経緯と成果を報告する義務があります。
その責任は重大であり、日本全国が注視しています。

さて、前置きが長くなりました。
前回はアフガニスタンで活動中に非業の死を遂げられた故中村哲先生についてのお話でしたが、この25日に先生のお別れ会が福岡市で開かれました。
想定を超える5000人が参列したそうです。あらためて先生の偉大さを感じました。

そんな中村先生のような、犠牲的精神で海外で活躍されている日本人はまだまだほかにもいらっしゃいます。
今回はネットでみつけたある女性医師をご紹介します。
NPO法人ザンビアの辺地医療を支援する会(ORMZ)副理事長山元香代子さんです。

ザンビア共和国は、途上国の中でも特に開発が遅れているところです。
そんなザンビアのへき地で活動する日本人医師が宮崎県出身の山元香代子さん(64歳)です。
十分な医療を受けることのできない人たちのために「巡回診療」を行っています。

巡回診療とは医師自ら現場に出向き、診療や薬の処方を行うことです。
すべてを無料で受けることができるため、さまざまな患者がやってきます。
山元先生は患者ひとりひとりとまっすぐ向き合い、優しく診察します。

患者が多いのがマラリアです。
高熱や頭痛、吐き気、ひどいときには意識障害や腎不全などを引き起こし、世界では開発途上国を中心に年間40万人もの命が失われているそうです。

山元先生が巡回診療を始めてから、マラリアで死亡する人は劇的に少なくなりました。
しかし、全てを無償で行う巡回診療には、薬代や人件費をはじめ、年間700万円もの資金が必要です。
NPO法人を設立したことで寄付が集まるようにはなりましたが、さまざまなところを切り詰めながら活動を続けています。

これまでに診察した患者は延べ2万8000人。過酷な環境で活動を続ける背景には、へき地医療を見つめ続けてきた医師としての強い思いがありました。

宮崎県都城市に生まれ育った山元さんは、中学生の頃に医師を目指すようになり、群馬県にある自治医科大学に進学します。
自治医大は、地域医療を担う総合臨床医を養成する大学で、学費は卒業後9年間のへき地勤務で返還が免除されます。

「卒業後、研修医を経て着任した場所は日本三大秘境のひとつ、宮崎県椎葉村でした。 椎葉村は平家の落人の里で、険しい山が連なっています。十分なコメや野菜もとれないなか、厳しい生活状況のなかで一生懸命に生きている人たちが幸せになれるお手伝いができる医者になりたいと思った。それが今日の原動力です」と語っています。

宮崎でのへき地勤務などの9年間を含め、日本で15年間地域医療に従事。
その後発展途上国での医療保健活動に関心を持ち、WHO、JICA専門家などとして活動を行うなか、ザンビア滞在中にへき地医療活動の必要性を強く感じたそうです。

2010年ザンビア共和国医師免許を取得し、「巡回診療」を開始します。
当初は年間500万円の活動資金が必要なため、3ケ月間日本の病院で働いて資金を稼ぎ、あとの3ケ月をザンビアで医療活動をするという生活を続けたのです。

「ランドクルーザーに資材を載せ、準医師、助産師、看護師、運転手と共に、朝5時に出て、多い時には150人以上の診療をします。
車の整備やカルテ、薬の調達のため1週間に1度巡るのが精一杯です。
継続できるのはスタッフと共有できる達成感のためです」

「ある日本人の医学生が『一銭のお金にもならないのになぜ何時間も歩いて活動に参加するのか』とあるボランティアに聞いたところ、『香代子が頑張っていて、共に働けるのが僕らの誇りだから』と言ってくれたそうです。ほんとう嬉しかったです」

山元先生は、医療活動に加えて井戸設置にも取り組んでいます。
「有志と共に作った『認定NPO法人ザンビアの辺地医療を支援する会』への多くの寄付金のお蔭で、これまでに19基の井戸を掘削することができました。

それまでは泥水をくみ出して、泥を沈めた上水を飲む生活だったのです。
最初にルアノ地区で井戸を掘った時は、奇跡だと言われました。
井戸掘りのトラックが到着した時子どもたちが学校から、わーと飛び出してきて大喜びした姿が忘れられません」

山元先生がここまで頑張れるのはなぜでしょうか。
過酷な状況に、孤独や迷いを感じることもありました。
女性として結婚や出産への憧れを捨てきれない時期は本当に辛かった、と語ります。

先生はいつも亡くなったお父さんの手紙と写真を肌身離さず持ち歩いています。
困難に立ち向かった時などこの写真を見て勇気を頂いているそうです。
お父さんが亡くなる2時間前に電話で言ってくれた言葉、それが何よりも励みになっているそうです。
「香代子は日本一の医者だ・・・豊かな人生は自分の心の中にあるんだよ」

病気や飢餓で苦しんでいる人を黙って放っておけない・・・お金のためでも、名誉のためでもなく、ただ恵まれない人々のために自分ができることをしてあげる。
イヤ、せずにはいられないという・・・これぞまさに「菩提心」のなせる業です。

中村哲先生と同じような、まさに菩薩の権化かもしれません。
正義感とか使命感とか信念とか、そんな理屈を超えた境地にあるのがまさに菩提心、すなわち「自未得度先度他の心」です。

一切の打算のない菩提心というものを先生の生き様から教えられます。
まさに「真に豊かな人生」がここにあるのです。
先生の益々のご活躍とご無事とご健康を祈念致します。

合掌

曹洞宗正木山西光寺