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法話

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法話--平成27年5月--

四諦--苦諦その4 病苦その2 病気にならない生き方その21
アレルギーその5 Tレグ細胞

アレルギーは1960年代より急増し、今や日本人の3人に1人が何らかのアレルギーに罹っているといわれます。
その病原のアレルゲンは1000種にも上り患者も増加の一途とか。
人類はこの大敵にどう立向かったらよいのでしょうか。

一度発症したら一生治らない病気なのでしょうか。
そんな印象がアレルギーにはありますが、そもそも病気の正体が分からないとしたら、その予防法も治療法も分からないのは当然のことです。

ところが、最近放送されたNHKスペシャル「新アレルギー治療」のなかで、まさにアレルギーの根本的治療になるのではないかと紹介されたものがあります。
それが「制御性T細胞」すなわち「Tレグ」といわれるものです。

この細胞を発見したのはなんと日本人で、大阪大学教授の坂口志文先生です。
先生はこの細胞をすでに20年も前に発見されていたのです。
その功績によりノーベル賞の登竜門といわれるガードナー国際賞の受賞がきまりました。
先生は、このTレグのコントロール次第で人は将来アレルギーから解放されるかもしれないと明言されました。
ノーベル賞候補者の発言だけにこれは凄い朗報です。
では、そんなに凄いTレグとは一体どんな細胞なのでしょうか。

そもそも免疫とは、体に入ってきた異物に対してさまざまな種類の攻撃細胞がチームプレイで攻撃し体を防御する仕組みです。
そのなかで体内に侵入した異物に対して、それが無害にも拘わらず攻撃細胞が執拗に攻撃することでアレルギーは発症します。

坂口先生は、免疫細胞の中に特別な役割をもつ細胞を発見したのです。
その細胞は、体内に侵入した異物が体に害が有るか無いかを判断し、無害だとわかった場合、攻撃細胞に対して攻撃を止める指示を出すのです。
それがTレグなのです。

これはまさに画期的大発見です。
つまりアレルギーはTレグが攻撃細胞を抑え込めないことで起こる病気だということが分かったわけですから、Tレグのコントロール次第で確かにアレルギーを抑え込めるという理屈になります。

ではその"人類の救世主"たるTレグをコントロールする方法はいったいあるのでしょうか。
今年2月、世界中のアレルギー研究の専門家が集まるアメリカアレルギー学会で発表された「ピーナッツアレルギーの仕組み」についての報告の中にそのヒントがありました。

ロンドン大学のギオン・ラック博士の研究の報告によりますと、ピーナッツアレルギーを未然に防ぐには、子どもたちは非常に早い段階からあえてピーナッツを食べた方が良いというものでした。

生後6~11ヶ月の赤ちゃん600人を対象に2つのグループに分け、片方にはピーナッツを与え、他方にはまったく与えなかったのです。
その結果、5歳の時点でのピーナッツアレルギー発症率は前者が3.2%、後者が17.3%というものでした。

このことから、とくに幼児期ピーナッツを食べることでピーナッツ専用のTレグが作られることが確認されたのです。
そして卵には卵専門のTレグが、小麦には小麦専門のTレグがそれぞれ作られるという、そうした結果が実験で得られたのです。

次に、アレルギー発症のメカニズムについての報告です。
イギリスの大学生ポール・ジョーンズさんは重度のピーナッツアレルギーに苦しんでいました。
ギデオン博士が調査に当たった結果、生後8か月のとき乳児湿疹に罹り、そのスキンケアに使っていたクリームの中にピーナッツオイルが入っていたことが判明したのです。

3歳のころには湿疹は治まったのですが、同時になんとピーナッツアレルギーを発症してしまったのです。
当時ピーナッツアレルギーを発症した49の子ども追跡調査したところ、実に91%が赤ちゃんの時ピーナッツ入りのスキンクリームを使っていた事実がわかったのです。

博士は、炎症などで皮膚や粘膜のバリアーが壊れ、その場所から食物などの異物が繰り返し侵入することで体はこれを寄生虫のような外敵と勘違いしてしまい、抑え込めるTレグが弱い場合、攻撃細胞はより攻撃的になりアレルギーを発症してしまうという研究結果を発表しました。
これがまさに食物アレルギーの基本的メカニズムだったのです。

花粉アレルギーも同様のメカニズムだとすると、皮膚や粘膜を通して侵入する花粉に対して、それに対抗できるだけの花粉専門のTレグが元々不足していたことが原因となるわけです。
ではなぜ1960年代以降花粉症の人が急増したのでしょうか。

ミュンヘン大学のムティウス博士は、田舎に暮らす人たちの方が都会に暮らす人たちよりもアレルギーが少ないことを知りその原因を調べました。
その結果、特に家畜と触れ合って生活している人たちはTレグの量がそうでない人よりも35%も多いことがわかったのです。

家畜に触れ合う人ほどアレルギーが少ないことは以前から別の研究でも言われていたことですが、その理由がTレグだったのです。
坂口先生によれば、子どもの頃に家畜が出す細菌を吸い込むことで免疫が刺激されてTレグが増えてくるのではないかということです。

ムティウス博士によれば、特に幼児期、食物のタンパク質が定期的に体内にさらされることで、それぞれの食物ごとに専門のTレグが作られるというのです。
ですから、離乳食はできるだけ色んなものを幼児期早い段階から食べさせて、食物ごとの専門のTレグを作ることが大事だということです。

その理屈からいえば、花粉症も幼児の早い時期に体内に花粉を多く取入れることで専門のTレグが作られれば花粉症は防げることになります。
特に1960年代以降、「キレイ社会」に生まれ育った多くの人たちは、幼児期スギに限らず自然の様々な植物や動物、家畜に触れる機会が極端に少なくなったのです。

その結果、人が本来持つ筈のTレグが体内に生産されなかったと考えられます。
つまり、人は自然から隔離されると、本来備わっている免疫システムが使われないことで退化してしまうのです。
たとえば無菌室で育ったマウスは自然に放されると忽ち病気になってしまいます。

いわば人にとっての「キレイ社会」はまさに「無菌室」状態ともいえるのです。
それを避けるには、特に幼児期から自然の中で出来るだけさまざまな動物や植物に触れ、できるだけさまざまな自然食を食べることでさまざまなTレグを体内に所有することです。

「NHKスペシャル」のさいごに花粉アレルギーの治療方法として紹介されたのが「舌下免疫療法」と「花粉症治療米」です。
前者は、舌下から少しずつ花粉の成分を体内に入れて少しずつTレグ抗体を増やすという方法です。

後者は、花粉の成分を操作しTレグのタンパク質をお米の中に組み込こみ、抗体を増やすというものです。
現段階において根治療法と考えられています。
これまで50人が臨床試験に参加し2か月後花粉の攻撃細胞が平均で50%も減少していたそうです。

さて、かねてから拙僧も「キレイ過ぎる社会」を問題視してきたわけですが、やはり人にとって「キレイ過ぎる社会」とはまさに「不自然な社会」「不適切な環境」だったわけです。
アレルギーのすべての原因がそこにあったのです。やはり人は自然の一部であり、「自然の摂理に則った生活」こそ健康の基だということが改めてわかりました。

合掌

曹洞宗正木山西光寺